【末梢型肺癌に対する光線力学的治療(PDT)に関する医師主導治験】
本治験における対象者の条件
本治験の対象は肺の末梢側に早期の非小細胞肺がん(ⅠA期)を発症し、がんの最大径が3cm以下及び、リンパ節への転移がない状態となります。具体的には以下の項目が条件となります。
- 1)非小細胞肺がんのステージⅠA期でリンパ節転移等がなく、手術や放射線療法ができない方。
- 2)CT画像検査で腫瘍が肺の末梢側にあり、腫瘍の大きさが25㎜以下と診断された方。
- 3)気管支鏡検査で診断と治療ができる方。
- 4)年齢が40歳以上の方。
- 5)日常生活による大きな支障がない(歩くことができて、軽い作業や座っての作業を行うことができる)方。
- 6)この治験に参加することについて、文書での同意が得られる方。
※この他にも幾つかの条件がありますが、すべての条件を満たした方のみ、本治験への登録が可能となります。
本治験(末梢型肺癌に対する光線力学的治療に関する医師主導治験)について
1.本治験の目的
本治験は肺の末梢側に発生した早期の肺がん(ⅠA期)に対して医薬品と医療機器の双方を用いた光線力学的療法(PDT)の効果や安全性を調べる医師主導治験です。
具体的には、厚生労働省の承認が得られている医薬品と医療機器、タラポルフィンナトリウム(医薬品)とPDT半導体レーザ(医療機器)の適応拡大及び、同じく医療機器であるレーザ光を伝達するための小型化プローブに対する新たな承認取得を目的としています。
また、加齢に伴う呼吸機能の低下や呼吸器疾病等によって、手術が適応できない末梢・小型の肺がん患者さんを対象に、治験薬(タラポルフィンナトリウム)とPDT半導体レーザとの組み合わせ、さらに小型化プローブを使用した光線力学的療法(PDT)を行い、無治療の患者さん(経過観察のみで治療を行わなかった場合)の成績と比べて、その効果があるかどうか、また安全であるかどうかを比較します。
2.本治験の実施及び施設における審査について
本治験では医師以外の委員及び病院外の一般の方をメンバーに加えた治験審査委員会によって、本治験が科学的、倫理的に問題ないかどうかについて審査を受け、既に承認を得ております。
尚、本治験審査委員会の手順書等につきましては広く一般公開されていますので、その内容はどなたでもご確認頂くことが可能です。
期待される効果、及び予測される副作用
1.従来の治療法と本治験及びPDTの可能性
現在、がんの最大径が3cm以下でリンパ節への転移がない早期の非小細胞肺がんに対して、治療の中心となっているのは外科切除(手術)ですが、様々な医学的理由により手術ができない場合は放射線治療が行われることもあります。
しかし、中には加齢や病状によって呼吸機能が低下していたり、肺炎等の合併症リスクによって手術や放射線療法が適応できない場合もあり、こうした患者さんについては従来、無治療での経過観察という選択肢が選ばれてしまう可能性が高いのが現状でした。
一方、外科切除(手術)でもなく、放射線治療でもない別の治療法として、肺の気管支に直接気管支鏡(プローブ)を挿入し、医薬品である光感受性物質と肺の気管支に挿入したプローブから放たれるレーザ光との組み合わせで行うがん治療「PDT」は、肺を切らずに肺機能を温存しながら治療ができる治療方法で、以前より低コスト・低侵襲の肺がん治療として実施されてきましたが、今までは肺の気管支の中心部分まで(気管支鏡で観察できる部分のみ)が対応可能範囲となっており、中心型より細部となる末梢型の肺がんに対してはPDT治療を行うことが出来ませんでした。
そこで今回、新たに開発した小型化プローブの有効性並びに安全性の確認ができれば、今まで到達できなかった、肺の気管支の、より細部にまで光線力学的療法(PDT)を行うことが可能になるのです。
2.期待される効果
本治験で行う末梢型肺癌に対する光線力学的治療(PDT)の有効性及び安全性が確認された場合には以下のような効果が期待できます。
- ①今まで気管支鏡で観察することができなかった、肺の気管支の細部にまで光線力学的治療(PDT)を行うことができる。
- ②様々な医学的理由によって手術または放射線治療ができない場合でも、経過観察ではなく光線力学的治療(PDT)を選択することができる。
- ③低侵襲での治療によって、肺を切らずに肺機能を温存しながら治療することができる為、患者さんの体への負担が大幅に軽減される。
- ④入院の必要がなく、高齢者の肺がん患者さんに対して外来での治療が可能となる。
- ⑤肺がん患者さんのQOL(生活の質)を維持することによって、健康寿命延長の可能性が期待できる。
3.予測される副作用
光線力学的療法(PDT)は、これまでに行われてきた数々の臨床試験などから、既に効果が出ているという結果が得られていますが、本治験において必ずしも有効な結果が出るとは限らず、場合によっては下記の表に示した副作用等の発現が可能性として考えられます。
Ⅰ)国内で適応外のがんの患者さんに治験薬を使用した時の副作用
国内で早期肺がん、原発性悪性脳腫瘍、再発食道がん以外のがんの患者さんに治験薬を使用した時の副作用として、肝機能異常(5件)、光過敏性反応(2件)、日光皮膚炎(2件)が報告されています。※情報は適宜更新されますのでご注意ください。
Ⅱ)特に注意が必要な副作用(光過敏症)
PDT施行前に投与する治験薬のような光感受性物質の欠点として、顔や手などの露出した皮膚にレーザ光以外のひかり(日光など)が当たると、化学反応が起き、赤くなったり、発疹や水ぶくれなどの光線過敏症を起こすことが知られています。
また現在、日本国内には他にも光感受性物質が市販されていますが、いずれの薬剤でも同じように光過敏反応が起こる可能性があり、PDT施行をされた場合は、治験薬投与後2週間は、直射日光を避けて過ごす必要があります。
4.副作用が起こったときの治療について
薬剤の副作用は、個人差が大きく、どのような人にどんな副作用が出るかは人それぞれです。その為、残念ながら治療開始前に、その副作用について完全に予測することはできません。副作用が出た時は、その時期と症状に応じて最適な治療を行います。
治験(臨床試験)とは
1.治験の概要と重要性
私たちが生きていく上で誰もが経験する病気や怪我。そんな病気や怪我を治す為に必要不可欠となる薬や医療機器は、その有効性や安全性をしっかりとテストした上で、厚生労働省の認可の基、実際の医療現場で使用されています。
どんなに可能性のある医薬品でも、どんなに新しい技術を用いた医療機器であっても、実際に医療現場で使用される薬や医療機器は必ずこのテストを通過しなければならない仕組みとなっています。
そんなテストの中でも、実際の患者さんにご参加を頂き、新薬や新しい治療法の効果及び安全性を調べる試験のことを「臨床試験」と呼んでいます。
中でも、厚生労働省の承認を得る目的で試験を行い、承認前の薬や医療機器の有効性や安全性を調べたり、既に承認済みの薬について新たな適応症や用法・用量の有効性または安全性を調べる試験のことを「治験」と呼んでいます。
実際の医療現場で使用されるすべての薬と医療機器は、この治験によってその有効性と安全性が確かめられた上で、はじめて世に出ることになっているのです。
今現在、実際の医療現場で使用されているすべての薬や医療機器、そして治療法については、このような数々の臨床試験によってその効果が確認されてきました。
これは臨床試験にご参加を頂き、ご協力を頂いた患者さん無くしては成し得ない結果であり、この結果は病気や怪我の治療法がこの先も進歩し続ける為に絶対に不可欠なものであると言えます。
また、治験への参加は患者さんご自身に決めて頂くことであり、決して強制ではありません。仮に治験にご参加頂いた後でも、理由に関係なく、中止を希望する場合や継続が難しい場合には、患者さんご自身の判断で、いつでもやめることができる仕組みとなっています。
2.治験の種類
大きく分けて、治験には製薬企業が主体となって行う「治験」と医師が自ら計画を立て、医師が主体となって行う「医師主導治験」の2種類があります。
それぞれどちらの治験も幾つかの段階や種類に分かれており、まず医薬品の場合、第一段階は数名の患者さんごとに段階的に治験薬の投与量を増やし、主に治験薬の安全性を確認します。これは治療に適切な投与量を検討するための試験で「第Ⅰ相試験」と呼ばれています。
また、第二段階として、第Ⅰ相で安全と判断された投与量や投与方法を用いて、治験薬の効果と更なる安全性を検討します。この試験のことを「第Ⅱ相試験」と呼んでいます。
さらに第三段階では、より多くの患者さんを対象として、今現在、実際の医療現場で使われている標準的な治療薬と治験薬の効果と安全性を比較し、その治験薬が優れているかどうか、または劣っていないかどうかを検討します。この試験のことを「第Ⅲ相試験」と呼んでいます。
一方、医療機器の場合は、第Ⅰ相から第Ⅲ相という段階はなく、「探索的治験」、「パイロット試験」、「ピボタル試験」という種類別に分類されています。探索的治験とは実際に人に使用できるかどうかを試みる試験であり、パイロット試験とはピボタル試験で検証を行う為の情報収集や知見を得る工程のことを意味しています。
また、ピボタル試験は有効性及び安全性の検証を目的とし、厚生労働省の承認申請に必要なデータを取得するための試験となっていて、医療機器の治験ではケースによって探索的治験とパイロット試験は実施されない場合もあります。
3.治験における利益相反について
治験における「利益相反」とは、治験に関わる医師等が企業等から経済的な利益(謝金、研究費、株式等)の提供を受け、その利益の存在によって、治験の結果に影響を及ぼす可能性がある状況のことをいいます。
その為、治験を行うにあたり、医師は治験対象となる治験薬や治験機器について、その開発企業から無償での提供を受ける場合がありますが、そのことが研究結果に影響を及ぼすことがないように、常に研究の透明性及び信頼性の確保を図りながら研究及び治験を実施しています。